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2018年1月24日 (水)

西部邁氏の思い出(2)

私は、西部邁氏の著作において初めて保守思想というものに触れ、その思想はその後の私の人生に大きな影響を与えた。

大学院を中退後、発言者塾の第1期生となり、東京を去ってからもしばらくは『発言者』を読み続けたし、メディアを通した西部氏の発言にも注目し続けた。

だが、その後、それほど西部さんの本を読まなくなってしまった。
それは、西部さんがあくまで社会(科)学の立場からものを考えられる方であり、対して私は、あくまで人文(科)学の立場からものを考えたかったからであろう。
政治や経済に興味を失ったわけではなく、依然としてそれはあり続けたのだが、人文科学とりわけ哲学および宗教への傾斜を強くしていったのだった。
そういう見地から見ると、「保守思想」の「言説」も、「私はこう思う」というものに過ぎなく見えてくるのであった。

最近の西部さんは、安倍政権に対する批判を強めていて、彼のロジックは理解はできるのだが、賛同はしかねるのだった。
もちろん、日本が対米従属を脱し、戦前のようなアジアの盟主としての真正の独立国家になることが、日本としての正しい道である。
だが、それには現実の様々な要素が係数としてかかってくる。それを度外視するわけにいかないではないか。
たった一度靖国神社に参拝しただけで、安倍さんはあれほど袋だたきに遭ったのだ。それを考えると、「戦後レジームからの脱却」は一朝一夕にできるものではないことは、わかるはずだ。
だからこそ、安倍総理は地道に地道に匍匐前進しているのだ。
それが、リアリズムだと思う。

やはり、西部さんは理想に燃えた革命家だったのかな、と思うのだ。
憲法改正でさえ、これだけ時間がかかるのだ。
こういうときこそ、西部さんのおっしゃる「漸進主義」が必要なのではないか。
保守の言論リーダーともあろうお方が、反安倍を言い出すのは、大変残念であった。
現実の政治現場における力学的関係を理解していないのではないかと思われるからであった。
皇室についても、女系天皇を容認するような発言をされていたらしいが、これはwikiで見ただけなので、詳しくは知らない。
あれほどもめたTPPについても、今振り返ってみればチャイナを中心とした「一帯一路」という、チャイナ版TPPに対抗する意味というのはとても大きかったのだ。それを見越していた安倍政権は慧眼というべきであろう。
保守というのは現実主義だが、西部さんは晩年になって理想主義に回帰されたのかと思うほどであった。

いや、故人に鞭打つようなつもりは全くないのだ。
西部さんから受けた恩恵はとても大きい。
その上で、西部さんと私との考え方の違いを述べたまでである。
西部さんとて、「教祖」にはなりたくないはずである。

もう一点、生と死についてである。
西部さんが社会科学系の学者であるにもかかわらず、生と死ということに度々言及されていたことは知っている。
西部さんは、自分の最後は自分で決めるというお考えの持ち主だったようだ。
これは武士の精神でもある。
保守の道を体現すべく、自裁の道をお選びになったのだろう。

だが、この死生観は私の今の死生観とは全く異なる。
そもそも生や死というようなものは、人間のコントロールできる範囲にはない、というのが私の考えだ。
今の“自我”が「生まれる」ことを意図して生まれたわけではないように、死も、今の“自我”が決められるものではないのだと思う。言うなればそれは神が差配するものであり、自分が自分を死なせるというのは、人間の則を越えた行為だと思うのだ。
生や死は人間の能動の範囲にはなく、それは受動の範囲にしかない。すなわち、生(生まれること、生まれさせること、生きること)も死も、目に見えない何かに委ねるしかない。もう行く時だよ、と言われれば従容として従い、それまでは苦しくとも生き続けなければならない、というのが私の死生観である。それは、この目に見える現実世界の背後に、何か大いなる存在があると思うからだ。そして能動的に生や死を差配できるのは、その目に見えない存在しかないと思うからだ。

ともあれ、西部さんは大いなる思想家であり、我が国の言論界に対する功績も大きかったと思う。謹んで哀悼の意を捧げたいと思う。

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